六陣 締切り戦士ミホ 〜のぶこ星人の逆襲〜 【前編】 04年 おジャホイッ!2

 

『で、どこまで出来てるの?』

『あと、もうちょっと…。 表紙は先にもう入稿したから』

『あ、表紙はもう入れちゃったんだ。 どれどれ…

あー、こんな表紙ね。 OKOK。 じゃ本文はギリで間に合うの?』

『…うー、間に合わす、つもり』

『相変わらず歯切れが悪いなぁ… ま、別にいいけどね。

今回は『のぶみほ』じゃなくって、別々参加な訳だし。

じゃ、私もプリキュア本描かなきゃならないからこれで。

みほみほ、がんばってね』

『ら、らじゃ』

 

 

『…やっぱ、ダメだった……』

『あー、はいはい。 そんなこったろーと思ったわよ。

ったくぅ、去年の夏コミと一緒じゃない。 何か間に合わせのコピー出す?』

『うー、じゃあ、この前間に合わなかった『プリぴち』をやってみゆ…

だから残り半分のネームちょうだい』

『あ、そうか…。 あれって、途中でページ多すぎの泣きが入って、ネーム半分だっけ。

んじゃ今から描いて渡すわ。 今度はがんばってね。

ってゆうか、できるの? もう一週間無いんじゃない??』

『なんとかなると思うー』

『…そんな事言って、『無国籍戦士』はまた落としたじゃない…。

表紙を入稿しときながら…』

『うぐぅ…』

『んじゃ、はい。 プリぴちネーム。 のぶみほの名前を冠していないからと言って、

まかり間違っても落っことす事ないように!』

『へ、へい』

 

 

という会話がなされ、今回のイベントの『おジャホイッ!2』の前に、

一回夏のコミックマーケットに二人は参加してたのね。

ま、これだけは各々の個人サークルで申し込んでたし、

特にのぶこはどれみ裏切ってプリキュアで参加してたので詳しいレポートは書かないわ。

一言述べるとしたら、

みほ先生、ついに原稿落としました。

みほみほのサークルは、そんな訳で新刊無し。

ああ、恐ろしい。

まかり間違っても、『のぶみほ新作工房を謳っておいて、

こんな事態は起こしたくないわね。

次ののぶみほサークル参加は、秋… 約一ヶ月と半分後の、おジャホイ2。

時間はあまり無いけど、のぶこはちょっと安心してました。

なぜなら、一応みほ先生が夏コミ合わせで書いてた、書きかけの新作である

『無国籍戦士あいこ』と『ふたりはプリぴち』が途中まで出来てるんだもの。

これをチョチョイ、と書ききるだけで、秋の新作は万事OK。

なんか、すごく楽勝すぎるからコピー本も作ろうかな。

あ、以前のホイで出した『かれじょ!』、アレを描こう。 あれはホイ限定作品にしよう…

 

などと、のぶこはミホに向かって

『やーい、落とした落としたー、ダッサー』

などといぢめ抜いていた8月の半ば。

すっかり心は大船に乗り、秋の航路に向けて順風満帆だったのです…。

 

 

そして、一ヵ月後。

あと半月で秋のイベントラッシュが始まる、そんな時です…。

 

『…え、ちょっと待って? みほみほ?

『は、はい… あの、待ってると時間なくなっちゃいますよ…?

『…えーと? たしか私、夏コミの時に進行状況聞いたわよね?

無国籍戦士、夏コミまでギリ間に合うかどうか、だったわよね?

表紙も印刷所に入稿したんだよね?

『…は、はぁ…』

『…みほみほ』

『へ、へひぃっ』

『あなたの『ギリギリ間に合う』っていうレベルは…

全44ページに一切ペンが入ってない状態で、

しかも下書きが半分しか終わってない

状況の事を言うのかしら!!!??

ひぃっ!!

だ、だって、あの時は間に合うかもーって、思ったんだもんっ…』

 

ほとんど白紙状態のくせに、そんな事思うなー!!!!

 

ぼぎゃー!!!!

(C)のだめカンタービレ

 

という訳です。

のぶこ、これほどまでの大嘘をつかれた事は、もう幼稚園時代に遡らないと記憶にありません。

乗っていた船に、実は燃料がほとんど入ってない事をいきなり突きつけられました。

『お、おまえ、航海する前にちゃんと『燃料マンタンです!』言ったじゃん!?』

『すんません、こんくらいでもいける気がしたんです☆』

死ぬぞ。

ってゆうか、ウソはやめてよみほみほ!! ウソは!!

え? ちょっと待って。 どういうこと? え?

のぶこ、ここに来て混乱しました。 落ち着けのぶこ。 ラマーズ法だ。

ひっひっふー、ヒッヒッフー…

…えーと…

 

『つまーり、アンタが一年かかっても描けなかった本を、残り二週間で書くわけだ。

ほとんど最初から全部』

『ひょ、ひょうしはできております』

『だまれ』

『ハイ』

『ってゆーか、おじゃホイのプリぴち本も、そーゆーことだと全然っぽいわね』

『鋭いね』

『もう喋るな』

『スンマセンッ』

『…あー…。 結論から言うと、こりゃムリよね。 その二冊』

『…』

 

そう。 ハッキリ言って、今までのみほみほの作画作業を見ていると、

この時間でそんなページ数は描くことができません。

圧倒的に時間が足りません。 ってゆうか、その時間、何してたの? ねえ。

…。

…そうよ。 そうだわ。

何やってたのよ!! みほみほっ!!

一年、いちねんよっ!!? 『無国籍戦士』に限ってはっ!!?

『プリぴち』だって、春のぷにけで『無国籍戦士』が間に合わないからって出した、

代用ネームじゃないっ!? それだって春よ!?

何で… 何で、できてないのっ!??

何で、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで

 

ぷちっ。

 

『ゴルァー!! みほ!! てめえ、絶対描かす!!

ってゆうか描け!!

『ひぃっ!!?』

『今日から、一日5P!! 絶対にあげろ!!

貴様が5Pあげるまで、ずっと起きて待ってる!!

絶対よこせ!!

オマエの首にはもう鈴だけじゃたりねえー!!!!

『ご、ごぺえじですかっ』

『そもそも、貴様は何か人間として間違っとるっ!!

いいか、みほ、この世で絶対の約束事って何だか分かるかー!!』

『ぎゃぴぃっ!! しりませんっ!!』

『それは、だー!!!

私たちがいっつも『1時』とか『4時間』とか『5日』とかいってる、

数字のことだぁー!!

よく覚えとけ、時間ってのは本来見えないものだし、人には分からないものなのよっ!

一口に『一時間』っていうけど、それは時計の針無しじゃ個人じゃ分からないでしょ!

各々勝手に『俺一時間』を言ってたら、合わないでしょ!!

だから共通の『約束』として、地球周期を基にした時間単位があるのよっ!!

世界の人は、みんなこれを約束にして動いているのよっ!!

それを、貴様はっ!!

そう、思い返せばみほみほ、アンタはその約束を全く守ってないっ!!

ってゆうか、その『約束概念』が無さ過ぎるっ!!

サークル参加は遅刻するっ!!

会場製本はするっ!!

イベント中に頼まれたスケブを、イベント終了後まで描いてるっ!!

貴様自身は自分時間でいいように不都合ないかもしれないっ!!

だけど、世界共通約束で動いてる人にとってはっ!

それってすっごい迷惑なのよっ!!!

待ってる人、その約束をアテにしてる人、そういう人の時間を

貴様はっ!!

 

考えたことあんのかー!!!

 

ぎゃぴぃー!!!

(C)のだめカンタービレ

 

と、のぶこサークル結成一年にして、ぶち切れました。

思えば今まで随分と…

甘やかしすぎたのかもしれない。

こいつは、

ぜってー、おとさねえ。

ぜってー、描かせてやる。 いやマジでほんとにこればっかりは。

のぶこ、人としてここで負けてはダメだ。

ここで負けたら、一生懸命『時間』を守って働いているお父さん・お母さんに申し訳が立たない。

 

『みほ』

『ひっ』

『まずは一週間でプリぴちをあげろ。 入稿しろ。 まずはそっからだ。

そして次は月末一週間前までに『無国籍戦士』入稿。 全44P、きっちり入れて貰う。

夏コミ合わせで、まがりなりにも『もうちょっとで出来る』本だったハズだ。

やれるな』

『…う、うぎぃ』

『で、月末までの… ホイ2までの一週間で、『かれじょ』作成。

ホイ後の『ぷにけっと』までの一週間で、もう一冊作成。

イベントは合計4冊の新刊を発行するっ!!!

えっ、こ、コピー本まで書くn』

口答えするなっ!! 貴様が言っていい言葉は

『サー! イエッサー!』

の一言だけよっ!!!!』

サ、サー! いえっさあー!

『で、締切りは言った通りに毎日5P。 深夜の二時までに、あげておけ。

その時間、私が受け取り、そして写植して返す。

このスケジュールを完遂せねば、絶対に本は落ちる。

で、万が一落ちた場合は

『…サー、イエッサー…』

『みほくん、君にとって数字はあんまり重要視する記号じゃないみたいだね。

時間と同じように、世の中の絶対約束としてもう一個数字の約束あるんだけど

分かるかな?』

『サー、イエッサー?』

お金よ。 お・か・ね。

というわけで、アンタ本一冊でも落としたら、イベント後の飲み代・カラオケ代…

全部一人で払ってもらうからゴチ

『え、えええええーっ!!!??』

『モチロン、参加者全員の分よ。

まー、ざっと4・5万は突破するけど、数字が分からないみほみほだもの、

別にどってことないわよねー。

まさか、時間は平気だけど

お金はダメってゆう、

舐めた事抜かさないわよね』

『う、うぐぅ… サー、イエッサー…』

『言っておくけど、私マジメよ。 絶対にやってもらうわよ。

原稿あげるか、全額オゴリか。

時間とお金の大切さを、親友としてキッチリ教育しておく必要があるわ

って分かってんのかコラー!!!』

ぎゃぼっ! サー、イエッサァァー!!!

 

 

そんなわけで、みほにきっちりと宣誓書を書いてもらい、

彼女の地獄のロードはここに開始されたわ。

9月半ばから、イベント終了まで約半月。

奴にとって、これほど時間に怯えた日々、そしてペンを握った日々は無かったでしょう…。

 

『なにぃーっ!! もう2時過ぎてるのに、終わってないーっ!!?』

『すんませんすんませんいますぐいますぐ』

 

『…アンタ、何描いてるのよ…』

『だ、だってホイの記念カードイラスト、締切り今日までって… ううう…』

 

自分たちの本が落ちるかどうかの瀬戸際に、そんなもん受けるなー!!!

 

ぎゃぼー!!!

 

 

いい加減、気分転換にはじめたエロ絵に没頭するなあー!!!

 

ぴぎゃー!!!

 

 

あまつさえ、修羅場にどch絵板にUPしてんじゃねえー!!!!

 

むきゃあー!!!

(C)のだめカンタービレ 三連続

 

携帯には毎日のように

『原稿やってんのかゴラー!! 今どこまでできてんの!!!』

という催促のメールが3通以上。

 

オンライン上で最初の挨拶が

『原稿できたか!!!』

 

みほも必死ですが、のぶこだって必死です。

のぶこは、みほの描いた原稿に写植を打たなければなりません。

みほが終わるまで、待ってなきゃなりません。

深夜2時にちゃんと手元にあればいいのですが、そんなことは一回もありませんでしたぶっちゃけ。

いつも朝の6時、ヒドイ時にはお昼までもつれ込み。

のぶこ、いつ寝たらいいのでしょうか。

(寝ると絶対、みほみほは緊張解けて手を緩めるに違いないわっ)

もはや、『みほは目を離すと仕事してない』を絶対条件に添えた判断しかできません。

のぶこもほぼ、平均睡眠時間がスゲエ事になった半月でした。

罵声と、怒声と、冷や汗と、寝落ちのヨダレと、こぼしたインクの日々が続き…。

 

 

イベント前日の夜。 というか、当日の朝…。

最後の1ホチキスがパチン、と鳴り止み、パサリと一冊のコピー本がその仲間たちの上に落ちた。

 

『…完成…』

 

時間を見る。 まだ7時を回ったばかり。

サークル入場は9時半(去年は8時半と、みほに騙された)、余裕で間に合う。

私の目の前には、みほが浮かれ気分で刷った130冊のコピー本が積みあがり

(前回、あれほど『二人の作業量じゃねーよ!』って言ったばかりなのに、増えてるっ!

傍らでは疲れ果てたみほみほがヨダレを垂らして(私のクッションの上に)寝ている。

軽くシャワーを浴びた私は、戻ってきて着替え、そして相棒を揺すった。

 

『…起きなさいみほみほ。 行くわよ』

 

みほはしょぼしょぼと目を擦り、頷いて支度。

私たちは、ゆっくりと家を出た。

 

途中で朝ごはんも食べ、コンビニで飲み物なども買い物。

人がまばらな朝の浅草を歩き、会場へ。

チケットの半券を見せて入場すれば、サークル入場して各々のスペースセッティングを

しているサークルさんたちの姿がある。

まだ来ていないサークルさんも多い。 入場締切り30分前だからだろうか。

自分たちのスペースにやってきて、来ていたお隣さんにご挨拶。

飾りつけ。 ディスプレイ。

今日の新刊、オフセット本の『ふたりはプリぴち』の出来上がり具合に、みほは少しご不満のようだった。

コピー本も、置く。 二冊の新刊がまぶしい。

そして、二人で座る。

後は… お客さんを待つばかりだ。

 

『…会場製本が、無い…』

『そうよっ』

『間に合ったんだよね?』

『そうね』

『…なんて…』

 

ああ、なんてゆったりとした気分なんだろう…。

 

みほが今更のようにつぶやいた。

私は頷き、言いました。

 

『みほみほ』

『イエッサ』

『…これが、ふつうなのよ』

 

そう。

これが、普通なのです…。

そう、思わなきゃ、いつまで経ってもあの混沌をイベント毎に繰り返さないとならない訳で…。

私もみほみほも、今回ばかりは胸を張ってお客さんを迎えられる。

どう? 見てみて。

私たち、ちゃーんと時間通りに何の手落ちもなく参加してるわよっ!

完璧よ! イッツパーヘクト!!!

いつものぶみほを『やれやれ』という視線で見ていくお友達やお客さんっ、

今日は…ふっふっふ、驚愕して日記につけるといいわっ!!

 

ってわけで、これほどカンペキだったにも関わらず、

この日は雨がザーザー、しかも来週にも『ぷにけっと』のイベントがあるため、

お客さんの姿は少なめでした。

 

み、みんなっ、ホントに今回ばっかりはカンペキこの上なかったんだからねっ!?

 

イベント自体もトラブル無く進み、みほも色々遊んでご満足。

出だし一発目のイベントは、こうして穏やかに終了したのでした。

帰りは焼肉にビールだったし。 (まだワリカン)

 

が、のぶみほの戦いは…

まだ、半分を超えたばかりなのでした。

 

一週間後は、ぷにけっと!!

 

 

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